情報セキュリティというと、ウイルス対策ソフトやファイアウォールなど「技術の話」を思い浮かべる人が多いのではないでしょうか。
しかし実際の事故の多くは、システムの不具合ではなく 人のミスや誤った判断 によって発生しています。
どれだけ技術が強固でも、ひとつのクリックや判断の遅れが、重大な漏えいにつながることがあるのです。
この記事では、
・人的要因とは何か
・どんな行動が事故につながるのか
・どうすれば人的ミスを減らせるのか
を、初心者でもわかりやすく整理して解説します。
この記事は、IT初心者向けに情報セキュリティの基礎を解説するシリーズの第9回です。
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人的要因が重大リスクになる理由

人的要因とは、
「従業員の判断・行動・知識不足が原因で起こるセキュリティリスク」
のことを指します。
技術と違い、人は心理状態や状況によって行動が大きく変わります。
そのため、以下のような特徴があり管理が難しいです。
判断がその場の状況で揺らぎやすい
忙しさや焦り、疲れが溜まると、普段なら気づけるはずのリスクにも気づけなくなります。
「急いで送っちゃえ!」と決断して事故が起こるケースは非常に多いです。
セキュリティ意識に個人差がある
同じ研修を受けても、定着度はバラバラ。
現場全体を一定の水準に揃えるのは簡単ではありません。
攻撃者が “人の弱さ” を狙ってくる
フィッシングメール、標的型攻撃、偽サイトなどは、
“信じてしまう心理”に巧妙につけ込む手法です。
ルールがあっても実際に守られるとは限らない
「少しくらい…」「今日は忙しいから…」という例外行動が事故の引き金になります。
ルールは作って終わりではなく、守れる設計であることが重要です。
代表的な人的ミスとその危険性

現場で特に多く、事故につながりやすい事例を整理します。
メール誤送信
宛先自動補完の誤選択、“全員に返信”の押し間違いなどは誰でも起こり得ます。
添付ファイルに個人情報が含まれる場合、 誤送信=即漏えい に直結します。
一度送信したメールは取り消せず、回収できない点も深刻です。
フィッシングメールに騙される
「アカウントが停止されます!」「至急対応してください」などの脅し文句で偽サイトに誘導する手口です。
ID・パスワードを入れてしまうと不正アクセスにつながり、
添付ファイルを開くとマルウェア感染することもあります。
見分けが非常に難しく、最新の攻撃は本物と区別がつかないほど巧妙です。
物理的なうっかり
PCを無施錠で席を離れたり、USBメモリやノートPCを紛失するケースです。
紙の書類の置き忘れも依然として多く、電車やカフェでの放置が漏えい事故に直結します。
“高い技術対策”より“日々の行動習慣”がものを言う領域です。
シャドーITの利用
個人判断で以下のような外部サービスを使ってしまうパターンです。
- 個人向けクラウドストレージ
- チャットアプリ
- メモアプリ
- 外部のタスク管理ツール
組織の管理外であるため、どこにデータが保存されているのか把握できず、
気づかないうちに機密データが外部に流出するリスクがあります。
心理的ストレス
心理的な負荷が高いと、人間の注意力は大きく低下します。
- 締め切り前で焦っている
- 上司や顧客から急ぎの依頼が飛び込む
- クレーム対応の直後で集中力が乱れる
こうした状況では、確認作業が形骸化し、宛先の思い込みやファイル添付の誤りが発生しやすくなります。
特にメール誤送信は 「焦っているときほど起きやすい」 典型例です。
ルール理解不足
セキュリティルールが十分に理解されていないと、そもそも「正しい行動」が取れません。
- 禁止行為を知らない(例:個人アドレスに業務データ送信)
- ルールが複雑すぎて覚えられない
- 新人教育・異動者教育が不十分
これは本人の問題ではなく、企業側の教育体系・周知方法の問題であることが多いです。
「知っている前提」の運用は、事故の温床になります。
手順の煩雑さ
操作手順が複雑すぎると、人間は手順を省略したり、勘に頼った操作をしてしまいます。
- 添付ファイルを暗号化 → パスワード作成 → 別メールで送信
- 承認フローが多段階で、手戻りが頻発
- システムのUIが直感的でない
こうした「煩雑な環境」では、手順飛ばしや誤操作が自然に起きやすくなります。
人ではなく、手順や仕組みがミスを誘発している 場合が大半です。
パスワード管理のずさんさ
弱いパスワード、使い回し、付箋にメモして貼り付け…
“覚えにくさ”を理由に安易な管理をしてしまうケースです。
攻撃者は漏えいしたパスワードや辞書攻撃を用いて突破を試みるため、
パスワードが弱点になると、芋づる式にシステムへ侵入される危険があります。
人的要因を減らすために組織が取るべき対策

“ミスを責める”のではなく、“ミスが起きにくい環境をつくる”ことが本質です。
個人の意識に頼るだけでは限界があり、組織として仕組み化していく必要があります。
教育やトレーニングを “継続” する
単発研修はすぐ忘れられるため、
学ぶ → 試す → 気づく → 改善する のサイクルが必要です。
- 月1の小テスト
- 本物に近いフィッシング訓練
- 新人・異動者向けオンボーディング
- 手を動かすハンズオン研修
特にフィッシング訓練は効果が大きく、行動変容につながります。
ルールをシンプルにする
複雑すぎるルールは守られません。
「守りやすい=守られる」 が鉄則です。
- パスワードは長さ+多要素認証へ
- 申請手続きはできる限り簡素に
- 持ち出しルールは明確かつシンプル
- メール送信のチェック項目を統一
現場が守れないルールは、“運用設計の見直しサイン”です。
技術で“人のミス”を補う
人的ミスはゼロにできないため、技術でカバーする発想が必要です。
- 二要素認証(MFA)
- 誤送信防止(送信前確認・添付の自動暗号化)
- 権限に応じたアクセス制御
- 端末の自動ロック、遠隔ワイプ
- ログ監査による異常検知
人のばらつきを仕組みで吸収するのがポイントです。
心理的安全性をつくる
「ミスを報告した人を責めない文化」をつくることが不可欠です。
- ミス共有を歓迎する
- 早期報告した人を評価する
- 相談窓口を明示する
- 上司が率先して“報告しやすい空気”をつくる
事故の多くは「言いにくいから後回し」の結果、大きな被害に発展します。
まとめ:技術より人が最大のリスク
システムは強化しやすいけれど、人の行動は完全にコントロールできません。
だからこそ、
教育・仕組み・文化 の3つを揃えてリスクを下げていくことが重要です。
「人を責めないで、失敗しにくい環境をつくること」
これこそが、安心して働ける職場づくりにつながります。
参考文献
- 独立行政法人 情報処理推進機構(IPA),『情報セキュリティ10大脅威』,IPA,(参照日:2026年3月30日).
https://www.ipa.go.jp/security/10threats/ - 総務省,『国民のためのサイバーセキュリティサイト』,総務省,(参照日:2026年3月30日).
https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/cybersecurity/kokumin/index.html - 警察庁,『サイバー警察局』,警察庁,(参照日:2026年3月30日).
https://www.npa.go.jp/bureau/cyber/index.html - 経済産業省,『サイバーセキュリティ経営ガイドライン』,経済産業省,(参照日:2026年3月30日).
https://www.meti.go.jp/policy/netsecurity/

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